多くの虐待防止研修資料を見てみると、
①虐待の範囲(定義や事例などから虐待を捉える)
②虐待発見時の対応(通報義務についての周知等)
③身体拘束等の適正化に関する対応策
この3点が主な内容である。
①虐待の範囲については、
虐待の定義(身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクト、経済的虐待)について説明があり、具体的な事例を見ていくことで、虐待の範囲を捉えていく。
②虐待発見時の対応については、
通報義務ということを強く主張して、少しでも虐待が疑われるようなことがあれば、すぐに通報することで、早期対応に繋げる。
通報することで不利益を被ることはないことや、虐待の疑いがあることに目を背けてはいけないことを周知する。
③身体拘束等の適正化に関する対応策については、
やむを得ず身体拘束をする時の要件として切迫性・非代替性・一時性の理解や、その際の支援計画への記載やご本人・ご家族の同意、記録といった対応について研修を受ける。
これらはもちろん必要不可欠な理解である。
大事なのは、これらの理解が、一体どこからきたものなのかということである。
根本的な理念が共有されていないと、これらを学んだところで実際の現場に活かすことはできない。
それでは、その根本的な理念とは一体何か?
それは、「福祉はサービス業だ」という理念である。
この理念を頭に入れておけば、サービス業としてご利用者様の立場で考えた時に自ずと虐待の範囲が見えてくるし、虐待を発見した際に、即座に通報しなければならないことは当たり前となってくるし、身体拘束等の適正化に関する対応策だって必要な対応の範囲が見えてくる。
サービス業として当たり前が福祉で成り立てば、それが一番の虐待防止対策なのだ。
福祉業界では、サービス業であるという主張に抵抗感を示す風潮もあるが、それは根本的にサービス業を見誤っているからだ。
サービス業としての振る舞いは、変にかしこまった対応をすることではない。
同じホテル業であっても、ラグジュアリーホテルとビジネスホテルとで、接客方法に違いがでるのと一緒だ。
TPO(時・所・場合)にあわせたサービス業としての振る舞いがある。
ただ、根本的にサービス業に共通の視点がある。
「お客様目線のサービス」
これである。
福祉は、ご利用者様目線のサービスを常に探究することが第一である。
サービスが職員側の都合であってはならない。
その根本的な見方をきちんと捉えられていたら、虐待はおきないのだ。
もちろん、「わが事業所はサービス業として成り立っているから虐待は当然おきない」と、盲目的になってしまう考え方は論外である。
常に虐待がおきる可能性は考慮しなければならない。
ただ、これまでの虐待防止研修は、あまりにも言葉の定義や制度の勉強ばかりで、とても難解だし、どのようなスタンスでその研修内容を理解したらいいのかという柱の見えないものばかりだった。
ともすれば、監査対策として記録が必要等といった職員側の都合による理解でしか虐待防止研修を捉えきれない内容になってしまっている。
虐待防止研修がまるで意味のない内容になってしまっているのだ。
監査や通報義務違反対策などといった職員側の都合による、いわば「押し付け」的な虐待防止対策では決して有効とは言えない。
サービス業としての当たり前
このことを丁寧に研修していくことこそ、根本的な虐待防止対策なのだ。